慶和大学ミスキャンパスコンテストの最終合宿は、毎年八ヶ岳の麓にある大学所有の研修施設で行われる。
本選まであと1ヶ月。ファイナリストに選ばれた6人の女子大生たちは、ここで3泊4日のハードなレッスン漬けの日々を送る。
ウォーキング指導、スピーチの練習、カメラテスト、SNS用の写真撮影。スケジュールは朝から晩までぎっしり詰まっていて、彼女たちの表情には常に疲労と緊張が滲み出ている。
俺の名前は佐々木。今年で51歳になる。
表向きの役職は、イベント運営会社から派遣された現場スタッフだ。機材の搬入搬出、会場のセッティング、控室の掃除、備品の管理、雑用の手配。
要するに、一番泥臭い裏方の仕事を一手に引き受ける「何でも屋」である。
女子大生たちや、現役学生で構成される若い運営スタッフから見れば、俺は「無害で空気のような親父」に過ぎない。自分たちの親よりも少し若い程度の、いつも作業着を着て無口に作業をしているおっさん。
挨拶をすれば「あ、お疲れ様でーす」と一瞬だけ視線を合わせ、コンマ数秒後には存在すら忘れ去られる。
それでいい。
いや、それ「が」いいのだ。
彼らの意識から完全に消え去り、風景の一部と同化すること。
それこそが、俺がこの仕事を10年以上続けている最大の理由であり、俺の本当の目的を果たすための絶対条件なのだから。
午後2時すぎ。
合宿所の2階にある共通控室の前に、俺は立っていた。
重い木製のドアを静かに押し開ける。
室内には誰もいない。しんと静まり返った部屋の中に、パイプ椅子や折りたたみ式の長机、キャスター付きのパイプハンガーが雑然と並んでいる。
エアコンの吹き出し口から、冷たい風が静かに吹き出している音だけが響いていた。
いま、1階の別館スタジオでは、候補者6人と学生スタッフ全員が集まって、後半戦に向けた全体ミーティングが行われている。
このミーティングは毎回長引くのが恒例で、最低でも40分、下手をすれば1時間は誰もここには戻ってこない。
俺の手には「定期見回り・施錠確認」と書かれたバインダーがある。万が一誰かが上がってきたとしても、見回りのフリをすればいいだけの話だ。
だが、その必要もないほど完璧な時間が、今まさに俺の目の前に広がっていた。
胸の奥が、どくんどくんと重く脈打ち始める。手のひらにじんわりと嫌な汗が滲む。
扉を内側から静かに閉め、カギをかける。
ガチャリという金属音が、誰もいない部屋に小さく響いた。
ここからは、俺だけの時間だ。
俺の目的は明確だった。
部屋の奥、窓際に置かれたパイプハンガーへ足を進める。そこには候補者たちの私服や羽織りものが数着、乱雑に掛けられていた。
その中でも、中央にポツンと下がっている一着の服に俺の目は釘付けになった。
有村莉乃(ありむら・りの)の服だ。
彼女は慶和大学文学部の3年生で、今回のミスコンの圧倒的なセンター候補、要するに一番人気の子だった。
黒髪のセミロングで、肌が白く、いつも育ちの良さそうな清楚な笑みを浮かべている。男受けも抜群で、SNSのフォロワー数も他の候補者とは桁が違う。
さっきまで、彼女はこの2階の控室で個別インタビューの撮影を行っていた。
撮影が終わった直後、彼女は「汗かいたから着替えますね」と言って、レッスン着のTシャツとショートパンツに着替え、1階のミーティングへと降りて行ったのだ。
パイプハンガーに残されていたのは、彼女が今朝から数時間前まで着ていた、白の薄手ブラウスと、紺色のフレアスカートだった。
俺はゆっくりと手を伸ばした。
まず、ブラウスの肩のあたりに指先を触れる。
あたたかい。
エアコンの冷気が当たっている部屋なのに、服の生地にはまだ、かすかに人肌のぬくもりが残っていた。
さっき脱ぎ捨てられてから、まだ10分か15分程度しか経っていない証拠だった。
俺はハンガーごとブラウスを外し、両手で包み込むように抱きかかえた。
ポリエステル混紡の、さらさらとした柔らかい生地。
だが、脇の部分と首回りの襟ぐりを触った瞬間、指先にずっしりとした重みと湿り気が伝わってきた。
冷や汗とは違う。若い女子大生が、緊張した撮影の中で、肌に直接布地を押し当てながらかいた汗の湿り気だ。
俺は喉を鳴らし、そのままブラウスに顔を埋めた。
フワッと、最初に鼻をついたのは市販の柔軟剤の匂いだった。石鹸のような、少し甘い清潔な香り。世間の男たちが「女の子のいい匂い」と呼ぶのはこれのことだろう。
だが、俺が求めているのはそんな綺麗事の匂いじゃない。
鼻を生地に強く押し付け、深く、息が苦しくなるまで吸い込む。
柔軟剤の香りの奥から、じわじわと本物の「生身の匂い」が立ち上ってきた。
首回りの襟ぐりからは、彼女の皮脂と頭皮に近い甘く重い匂い。
そして、脇の縫い目のあたりからは、少し酸っぱく湿った、熱い汗の匂いがしっかりと残っていた。
「……うっ」
思わず声が出た。
清楚で、いつも完璧な笑顔を見せているあの有村莉乃が、この服の中で体温を上げ、汗をかき、皮膚を擦り付けていたのだ。
その生々しい事実が、布切れ一枚を通してダイレクトに俺の脳味噌に叩きつけられる。
俺はブラウスの襟ぐりに口唇を押し当てた。生地越しに、彼女の首筋に触れているような錯覚が走る。
しっとりと湿った生地は、ほんの少し塩っぽいような、独特の水分を含んでいた。俺は舌先を少しだけ出し、襟ぐりの内側の縫い目をそっと舐めた。
舌の上に伸びる、ぬるい生地の感触。
頭がクラクラした。
50を過ぎた冴えないおっさんが、20歳の女子大生の脱ぎたての服に顔を擦り付け、汗を舐めている。
バレたら一発で人生が終わる。警察に引き渡され、会社をクビになり、近所や家族からも変質者として一生白い目で見られる。
その圧倒的な背徳感が、俺の股間に猛烈な熱となって集まっていく。
だが、まだ終わりじゃない。
俺はブラウスを大事に抱えたまま、もう片方の手でパイプハンガーから紺色のフレアスカートを外した。
薄手のウール混の生地。手に持つと、ブラウスよりもずっしりと重い。
スカートのウエスト部分に手をやる。チャックの周辺と、一番上のフックのあたり。彼女が自分の細い腰回りにしっかりと巻き付けていた場所だ。
そこには、ブラウス以上に濃厚な体温が溜まっていた。
指先をウエストの内側に滑り込ませる。
裏地のツルツルしたナイロン生地が、彼女の体温と汗でしっとりと湿り、肌に吸い付くような生温かさを保っていた。
俺はそのまま、スカートのウエスト部分に顔を突っ込んだ。
「……はぁ、……ふぅ……」
自分の荒い息が、スカートの内側にこもる。
ここは、彼女の下半身が直接収まっていた場所だ。下着一枚を隔てたすぐ向こう側に、彼女の太ももや腰、お尻があった。
匂いが違う。
上着のブラウスとは明らかに違う、もっと濃くて、重くて、生々しい肉の匂い。少し蒸れたような、女子大生の体臭そのものが、生地の奥底にびっしりと染み付いている。
俺はスカートに顔を埋めたまま、長机の陰になり、外からは絶対に見えない床の上に膝をついた。
パイプ椅子の脚が目に入る。雑然とした控室の低い視線。
右手に莉乃のブラウス。左手に莉乃のスカート。
ブラウスの脇の湿った部分に鼻を擦り付け、同時にスカートのウエストの内側に口を押し当てる。
「莉乃ちゃん……有村さん……」
普段なら口に出すことすら許されない名前が、擦れた声となって漏れた。
いつも俺の前を通り過ぎる時、彼女は目すら合わせない。
「お疲れ様です」と作業的に発せられる声には、俺という人間に対する関心など微塵もない。俺は彼女にとって、そこに転がっているパイプ椅子と同じ「物」なのだ。
だが今、俺はその「物」の立場を利用して、彼女のすべてを奪い取っている。
彼女が今日かいた汗も、体の熱も、肌の匂いも、すべて俺の鼻と口の中に吸い込まれ、俺の体内に取り込まれていく。
彼女自身は1階で能天気にミーティングに参加している間に、彼女の「生」の最も汚くて生々しい部分を、この俺が一人で貪っているのだ。
この支配感。この圧倒的な優越感。
パンツのファスナーに手を伸ばす。
布越しに感じる彼女の湿り気と温度が、俺の理性を完全に吹き飛ばした。
俺は片手で莉乃のブラウスを強く握りしめ、その脇の部分を自分の口の中に押し込んだ。
じわ、と生地に含まれた湿り気が口の中に広がる。柔軟剤の苦味と、微かな汗の塩味が混ざり合った、生々しい味がした。
もう片方の手で、自分の固くなったモノを外に引っ張り出す。
目をつむると、目の前に莉乃の姿がはっきりと浮かんだ。
ステージの上でスポットライトを浴び、可憐に微笑む有村莉乃。
その彼女が、いま俺の目の前で脱ぎ捨てた服になり、俺の体温と混ざり合っている。
手を激しく動かす。
ギシ、と自分の膝が床のフローリングを擦る音が聞こえたが、もうどうでもよかった。
誰も来ない。ここは俺だけの部屋だ。莉乃の匂いと熱に包まれた、完璧な密室だ。
「……ふぅ……ッ、……あ……」
呼吸がどんどん浅く、速くなっていく。
ブラウスの生地を噛み締めながら、俺はさらにスカートの中に顔を深く埋めた。蒸れた生地の匂いが脳味噌の奥まで痺れさせていく。
限界が近かった。
50代の、衰えたはずの体が、20歳の女子大生の汗の残り香によって、狂ったような熱量を帯びて暴れ出す。
「……くそ……ッ、莉乃……っ!」
腰がガクガクと震え出した。
俺は最後の一線を越える覚悟を決め、手に持っていた莉乃のブラウスの胸元を、自分の下半身のすぐ目の前に引き寄せた。
ドクン、と大きく脈打つ感覚とともに、熱い塊が勢いよく飛び出した。
「……ッ!!」
声にならない絶叫が漏れた。
勢いよく飛び散った白い液体は、容赦なく有村莉乃の白いブラウスの裾と、紺色のスカートの裏地にベッタリと降りかかった。
ドクドクと何度も打ち付けられ、ドロリとした精液が、彼女の着ていた生地の上に斑点となって広がっていく。
彼女がかいた透明な汗の上に、俺の濁った液体が混ざり合い、ゆっくりと生地の奥へと染み込んでいく。
息を荒く吐き出しながら、俺はその光景をじっと見つめた。
さらさらとした清潔なブラウスの生地が、俺の体液で重く濡れ、ドロドロに汚れている。
彼女の体温と汗の匂いに、俺の泥のような生臭い匂いが完璧に上書きされ、融合していた。
「……あぁ……」
恍惚感が全身を駆け抜けた。
俺はやってしまった。取り返しのつかない一線を、完全に越えてしまったのだ。
だが、後悔など微塵もなかった。あるのは、胸が張り裂けそうなほどの達成感と、酷く濁った快感だけだった。
数分後。
俺は荒い息を整えながら、ポケットからあらかじめ用意しておいたウェットティッシュを取り出した。
服に付着した自分の液体のうち、表面に残っている大きな固まりだけを、慎重に、丁寧に拭き取る。だが、生地の繊維の奥深くに染み込んでしまった分は、どうしても消せない。
それでいい。目立たない裾の裏側だ。パッと見では絶対に気づかれない。
だが、彼女が次にこの服を着るとき、あるいは家に持ち帰って洗濯カゴに入れるとき、彼女の肌や指先には、確実に俺の精液の成分が触れることになる。
彼女は気づかないまま、俺の体液が染み込んだ服を身に纏い、笑顔で生活するのだ。
考えただけで、またゾクゾクとした悪寒が走る。
俺は服を丁寧にハンガーに戻し、元あったパイプハンガーの真ん中に掛け直した。シワを伸ばし、何事もなかったかのように配置を整える。
ファスナーを上げ、作業着の乱れを直す。
バインダーを小脇に抱え、ドアのカギを静かに解除した。
ガチャリ。
ドアノブを回して廊下に出る。
廊下の向こうから、談笑しながら階段を上がってくる女の子たちの賑やかな声が聞こえてきた。ミーティングが終わったらしい。
「あー楽しかった! 次のレッスン何時だっけ?」
「3時からだよー。一回着替え戻ろ!」
声の主は莉乃と、仲の良い別の候補者だった。
俺は壁際に寄り、ペコリと深く頭を下げて、すれ違いざまに「空気」に戻った。
「あ、お疲れ様でーす」
莉乃が、一瞬だけ俺を見て、すぐに興味を失ったように視線を外して控室へと入っていく。
彼女の背中を見送りながら、俺は作業着のポケットの中で、そっと自分の指先を舐めた。
指先にはまだ、彼女の汗の塩味と、自分の匂いが混ざり合った独特の感触が残っていた。
「お疲れ様」
俺は誰にも聞こえない小さな声でそう呟くと、ゆっくりと階段を降りて行った。