合宿最後の夜を迎えた八ヶ岳の研修施設は、1階から聞こえてくる賑やかな歓声と乾杯の音に包まれていた。
明日はいよいよ本選に向けた最終調整と解散式。今夜は候補者全員と学生スタッフが集まり、1階の大食堂で打ち上げを兼ねた決起集会が開かれている。
グラスがぶつかる音や、若い男女が爆笑する声が、吹き抜けを通して2階の廊下までかすかに届いていた。
俺の名前は佐々木。今年で51歳になる。
表向きの顔は、イベント運営会社から派遣された現場の雑用スタッフだ。
機材の移動、ゴミの回収、空調や施錠の管理など、誰もやりたがらない地味で泥臭い仕事を、この4日間黙々とこなしてきた。
若い候補者たちや学生スタッフにとって、俺は「無害で空気のような親父」だ。作業着を着て、目立たず、余計なおしゃべりは一切しない。
廊下ですれ違っても「あ、お疲れ様です」と目線を下げて小さく頭を下げるだけ。彼女たちの頭の中で、俺という存在は廊下に置かれたパイプ椅子やゴミ箱と同じ「風景の一部」として処理されている。
それでいい。
彼女たちの視界から完全に消え去り、無害な背景になり切ることこそが、俺がこの合宿所で自分の「本当の目的」を果たすための完璧なカモフラージュなのだから。
第5話のターゲットは、慶和大学3年の西野葵(にしの・あおい)だった。
軽音サークルに所属しているサブカル系のボブ女子で、他の候補者たちが好むような清楚系や華やかなギャルファッションとは一線を画している。
ダボッとした古着を好み、サバサバとした男勝りな口調で喋る独自路線。
スタジオに入り浸っているらしく、どこか怠惰で気怠げな雰囲気を漂わせているのが特徴だった。
俺のような作業着姿の冴えないおっさんに対しても、構うことなく「佐々木さーん、そこのゴミ置いときますねー」と軽いノリで声をかけてくる。
気取らないサバサバした性格だが、だからこそ彼女の私物には、作られたお嬢様っぽさとは違う、リアルで生活臭のする生々しさが詰まっているはずだった。
午後9時すぎ。
2階の共通控室の前には、完全に人の気配がなくなっていた。
1階の打ち上げは盛り上がっており、少なくともあと1時間は誰も2階へ上がってくることはない。
酒やジュースが入り、ワイワイやっている最中に誰かがわざわざ控室に戻ってくる可能性はゼロに近かった。絶対にバレない完璧な状況だ。
俺は手に「控え室の最終整備・備品整理」と書かれたバインダーを持ち、静かにドアノブを回した。
重い扉を開け、中に入る。内側からカギを静かに降ろす。
ガチャリと金属音が小さく響き、完全な密室が完成した。
胸の奥が、どくんどくんと重く脈打ち始める。作業着のポケットの中で、指先に嫌な汗が滲んできた。
部屋の中は、最終日を迎えて候補者たちが脱ぎ散らかした荷物で乱雑になっていた。
俺の足は、迷うことなく部屋の奥にあるパイプ椅子へと向かった。
そこに、葵が愛用している古着のデニムジャケットが、雑に背もたれへ放り投げられていた。
そして、その下の座面には、レッスン後に脱ぎ捨てたと思われるくたっとした綿のTシャツと、黒のキャミソールインナーが丸めて置かれていた。
俺はまず、古着のデニムジャケットを手にとった。
「……重いな」
厚手のしっかりとしたデニム生地。
使い込まれて柔らかくなった生地からは、古着特有の乾いた布の匂いと、微かに甘い柔軟剤、そしてどこか香ばしいタバコの煙の残り香が混ざり合って漂ってきた。
彼女自身が吸うのか、あるいは軽音サークルの部室でついた匂いなのかはわからないが、その混ざり合った匂いが一気に生々しい生活感を醸し出している。
俺はデニムジャケットを抱え込み、首元に顔を近づけた。
首の後ろが当たる襟ぐりの部分。そこには、彼女のうなじから発せられた人肌のぬくもりが、かすかに残っていた。
深々と息を吸い込む。
古着の匂いとタバコの残り香の奥から、彼女自身の皮脂と頭皮に近い、少し重く甘い体臭が固まりとなって鼻腔を突いた。気取った香水など使っていない、生身の女子大生の匂いだ。
「……ふぅ……っ」
俺は喉を鳴らし、そのままデニムジャケットの襟ぐりに口唇を押し当てた。
硬いデニムの縫い目が、彼女のうなじの熱を記憶しているかのように生温かい。
だが、本番はここからだった。
俺はデニムジャケットを首にかけたまま、パイプ椅子の座面に丸められていたTシャツとキャミソールを手にとった。
白の薄手の綿Tシャツと、化繊の黒いキャミソール。
手にした瞬間、ずっしりとした湿り気が指先に伝わってきた。
「……うわ、まだ湿ってる……」
さっきまで行われていた最後のハードなダンスレッスンの後、彼女が素肌の上に直接着ていたインナーだ。
俺は丸まったTシャツを広げ、両手で包み込むようにして顔全体を覆った。
「……ッ!!」
息が詰まった。
アウターのデニムジャケットとは比較にならないほど濃厚な、生々しい熱気と汗の匂いが顔全体に広がる。
脇のあたりの縫い目と、胸元、そして背中が当たる部分。
そこには、21歳の若い女子大生が体を動かし、じっとりと肌を濡らした汗の水分がたっぷりと吸い込まれていた。
綿の生地が吸い取った汗は、少し酸っぱく、蒸れたような独特の匂いを放っている。
サバサバとしていて、男勝りに振る舞っている西野葵。
その彼女が、この薄い布地を素肌に密着させ、汗をかき、胸を上下させて息を吐いていたのだ。
俺はTシャツの脇の部分に鼻を強く押し付け、息が苦しくなるまで深く吸い込んだ。
「はぁ……はぁ……っ」
柔軟剤の匂いなんて完全に吹き飛んでいる。そこにあるのは、彼女の皮膚と汗と体温が織りなす、生々しい「肉体の匂い」だった。
俺はTシャツの脇の縫い目を口の中に少し押し込み、生地を噛みしめた。
舌の上に広がる、綿のざらついた感触と、微かな汗の塩味。
普段、俺の前で気取らない笑顔を見せ、「佐々木さーん」と気安く呼んでくる彼女。
俺を「無害なおじさん」だと疑いもしない彼女の素肌の分泌物が、今、俺の口の中でダイレクトに味覚を刺激している。
頭がクラクラした。
51歳の冴えない作業着のおっさんが、深夜の控室で、21歳のサブカル女子大生が脱ぎ捨てた汗ばんだインナーを舐め、古着のジャケットを首に巻いて興奮している。
もし今、打ち上げに飽きた誰かが上がってきたら。もし鍵が開いて誰かに見られたら。
俺の人生は一瞬で終わる。警察に突き出され、変質者として近所や親戚に噂され、死ぬまで白い目で見られ続ける。
その圧倒的な恐怖と、絶望的な背徳感が、俺の股間に強烈な熱を集め、作業着のズボンを突き破らんばかりに膨らませていった。
俺はパイプ椅子の陰になり、ドアからは絶対に見えない床の上に深く膝をついた。
作業着のベルトを外し、ズボンと下着をまとめて膝まで降ろす。
ひんやりとした部屋の空気に、激しく立ち上がった己のモノが晒された。
左手で葵の湿ったTシャツとキャミソールを固く握り締め、右手で自分のモノを握る。
首には彼女の古着デニムジャケットが重く覆いかぶさっていた。
「ハァ……ハァ……ハァ……っ!」
激しく手を動かし始めた。
目は、パイプ椅子の上に置かれた彼女の私物と、手に持った湿ったインナーに向けられていた。
『佐々木さーん、ゴミそこ置いときますねー』
脳裏に、ボブヘアを揺らしながらサバサバと笑う葵の姿が浮かぶ。
彼女は俺のことなど、自分と同等な人間だと思っていない。ただの便利で無害な雑用係のおじさんだと思っている。
だが、現率はどうだ?
彼女が素肌に直接着て、汗を吸わせたインナーは俺の口の中にあり、彼女のうなじの熱気は俺の鼻孔を汚している。
彼女が1階で酒を飲み、サークル仲間や候補者たちと笑い転げている間に、彼女の最も生々しく、見られたくない体臭と湿り気を、俺が一人で解剖し、味わい尽くしているのだ。
この圧倒的な支配感。気取らない彼女の生身の部分を、俺が完璧に汚しているという狂おしいほどの優越感。
手がどんどん速くなる。膝が床のフローリングに強く擦れ、鈍い音を立てたが、止めることなんて不可能だった。
俺は左手に持っていた葵の汗で湿った黒いキャミソールを、自分のモノの先端にピタリと押し当てた。
化繊のツルツルとした生地と、吸い込まれた汗の湿り気が、先端の皮を激しく擦り上げる。
「葵……ッ! 西野……っ!!」
声にならない擦れた叫びが漏れた。
限界だった。
50を過ぎた老いぼれの体が、21歳のサブカル女子の生々しい汗と体臭に当てられて、狂ったように熱を帯びて爆発しようとしていた。
「……っ、出る……ッ! 出る……っ!!」
腰がガクガクと激しく震え出した。
俺はキャミソールの胸元の最も湿っていた生地を、己の先端に強く押し付けた。
ドクン、と大きく脈打つ感覚。
次の瞬間、熱い液体が勢いよく噴き出した。
「……っうく……ッ!!」
歯をくいしばり、声が出ないよう必死に耐えた。
ビクビクと跳ね上がる先端から、ドロリとした白い塊が何度も吐き出され、葵の黒いキャミソールの内側——彼女の胸元が直接触れていた生地の上に、直接降りかかった。
一度では収まらず、二度、三度と熱い体液が吐き出され、黒い生地の上に白く濁った斑点を広げていく。
彼女が汗をかいて濡らした透明な水分の上に、俺のドロドロとした精液が混ざり合い、じわじわと生地の繊維の奥へと染み込んでいった。
「……ハァ……ハァ……ハァ……」
すべてを出し切った俺は、床の上に崩れ落ち、荒い息を吐き出した。
手元に残された黒いキャミソールを見つめる。
胸元の生地が、俺の体液でベッタリと重く濡れ、白く濁った痕跡を残していた。
彼女の汗の匂いとタバコの残り香に、俺の生臭い体液の匂いが完璧に混ざり合い、濃厚な匂いを放っている。
俺は一線を越えた。取り返しのつかない罪を犯した。
だが、胸の中に広がっていたのは、圧倒的な恍惚感と、酷く濁った達成感だけだった。
数分後、俺は荒い息を整えると、ポケットからウェットティッシュを取り出した。
キャミソールの表面に残った大きな液体の塊を慎重に拭き取る。
だが、黒い生地の繊維に深く染み込んだ分は、光の加減によってかすかにシミとなって残ってしまう。
これでいい。暗い控室でパッと見ただけでは絶対に気づかない。
だが、彼女が明日、合宿を終えて荷物をバッグに詰め込むとき。あるいは自宅に帰って洗濯カゴにこのキャミソールを放り込むとき。
彼女の指先には、確実に俺の精液の成分が触れることになる。
彼女はそれに気づかないまま、「なんか部屋干しの匂いが残ってるな」くらいに思いながら、俺の体液が染み込んだ布地を触るのだ。
想像するだけで、背筋にゾクゾクとした悪寒が走った。
俺はキャミソールとTシャツを元のように丸め、パイプ椅子の座面の上にそっと戻した。
首に巻いていたデニムジャケットを外し、背もたれに雑に掛け直す。脱ぎ捨てられていた時の角度とシワを完璧に再現した。
作業着のファスナーを上げ、ベルトをしっかりと締める。
バインダーを小脇に抱え、ドアのカギを静かに解除した。
ガチャリ。
廊下に出ると、1階からの賑やかな歓声がまだかすかに聞こえていた。打ち上げはまだ続いているようだ。
俺は「無害で空気のような親父」の顔を取り戻すと、廊下の照明の点検をするフリをしながら静かに階段を降りて行った。
明日、あのキャミソールを鞄に詰め込む時の彼女の顔を想像しながら、俺は静かに笑みを浮かべた。